濡れる右袖






突然の夕立に襲われる
安い傘を買う気にもなれない
駅の下で一人
湿ったカーテンを目の前に雲が過ぎるのを待っていた   

ふと目に入った紺色の傘
覚えのあるその影に思わず手が伸びる
けれど、その手が雨に濡れることはなかった

雨の降らないこの部屋で
袖が濡れているのはどうしてだろう
右の袖の先の方
そこだけが熱を帯びていた

少しだけ軽くなった財布
少しだけ重くなった右腕
彼とは逆方向へと踏み出した足は
水溜りに落とされる
その冷たさは私の足を凍らせた

雨の降らないこの部屋で
袖が濡れているのはどうしてだろう
右の袖の先の方
そこだけが熱を帯びていた

雨の降らない傘の中
袖が濡れている彼を見た
右の袖の上の方
私の視線で温められたなら




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